
「職業」としての農業と働くことの意味
永田 麻美さん
地域開発プランナー・コーディネーター
以前、農業雑誌を編集していた時、その雑誌の中で一番人気があったのは農業者そのものにスポットを当てたルポシリーズでした。農業者、農業者ではない都会暮らしの読者のどちらからの感想にも、「農業という職業を選んだ一個人の人生の軌跡や考え方に感動・共感した」というものが多かったことを思い出します。
ひとくくりに「農家」と言っても、その形態はさまざまです。日本には専業と呼ばれる農業者は少なく、ほとんどが農外から収入を得ている兼業農家です。最近では、田舎暮らしへの憧れから自給自足の農業を始めたいという人たちも出てきています。京都の綾部市に大阪からUターンした塩見直紀さんが提唱する「半農半X」は、農業だけを生活手段にするのでなく、自分の天職となる仕事(X)をしつつ、自分の食べるものを自ら作って賄うという新しい生き方。団塊ジュニアを中心に、若い人たちに静かな広がりをみせています。
働くことの意味が見出せない、良きロールモデルを見つけることができない若い世代の人たちが、環境や農業の世界に魅せられ始めています。奈良市のある自然農法グループを取材で訪ねた際、23歳の青年に出会いました。彼は、当初、別の自然農法塾へ行くつもりだったとか。たまたま自転車で桜鑑賞に行って道に迷い尋ねた相手が、今彼が師事する自然農法グループの代表でした。「結果的によかった」と微笑みながら、彼は真っ直ぐに私の目を見ると次のように熱く語ってくれました。
「僕ら今の若い子はなーんも考えてないと思われているかもしれない。けど、実はいろいろ考えて悩んでる。環境問題の解決の一つが僕は農業だと思った。で、これで生活できるとわかったら、大勢の若い子がこっち(農業)に流れてくると思う。これからは工業で成功した日本でなく、農業で生きていく日本にならなきゃいけないと思う」
「半農半X」が支持されるのもわかる気がします。今、塩見さんの著書『半農半Xという生き方』(ソニーマガジンズ)は韓国、台湾でも翻訳され、人気を博しているとのことです。
「僕の人生の先生の一人である、ある人が教えてくれたんです。人間と動物の違いは何か。それが“働くこと”。人間は神さまから働くという贈り物をもらったんだと」
私の友人の言葉です。私たちはなぜ働くのか? 生活費を稼ぐため。それもあります。それ以上に私は、社会参画したいから働きたい。働くという行為は、社会とつながる大切な手段です。だから、私は、可能な限り働き続けたいと思っています。
「社会の歯車になりたい」。常日頃、私はそう思っています。一人ひとりが自分の仕事をキチンと行い「歯車」として機能することで、社会はよくなるはず。誰かの背中をポンと押すことで次の人の動きを後押しすることができる。一人の人間の力は小さいものです。ですが、小さな動きが大きな動きに変わるときがあると信じています。
*このたび、“有名でもなく偉くもないけど自分に正直で誠実に地道に生きている人たち”を応援するWebサイト『いちぐう』を立ち上げました。普通に懸命に働く人たちが、他の人の生き様や考えを知り少しでも勇気づけられるような、そんなサイトを目指しています。サイト名に込めた、「世の中の一隅を照らしている人々を紹介し、読者の皆さまと千載一遇の出合いを分かち合いたいと」の思いで、地道に発信をしていきます。
地域と人のドキュメンタリーサイト
永田麻美(ながた・まみ) 地域開発プランナー・コーディネーター
★プロフィール
熊本県生まれ。(株)INAXから(学)産能大学(現・産業能率大学)に。同大にて企業の経営コンサルティングプロジェクト、企業人の意識調査、マーケティング調査に携わる。平成5年(財)21世紀村づくり塾入職(平成13年より(財)都市農山漁村交流活性化機構に名称変更)。平成7年秋?平成19年3月まで農村と都市の交流ネットワークマガジン『びれっじ』編集長(平成19年4月より休刊)。全国の農山村を自ら取材、執筆、編集。食・農業・環境雑誌『空ト風ニ』編集長を経て現職。平成20年9月、地域と人のドキュメンタリーサイト『いちぐう』立ち上げ(編集長)。『びれっじ』編集長時代より地域開発アドバイザーとして、国や各市町村の事業に携わる。平成20年3月中央ろうきん助成プログラムの選考委員を務める。
★各種委員
宮城県庁、山梨県庁、秋田県藤里町などの農業振興や地域活性化に関わる専門委員を始め、各種セミナー講師、シンポジウムコーディネーター、パネリスト出演など多数。現在、全国水土里ネット「魅力ある田園空間事業」アドバイザー